【アンティーク・ヴィンテージ】 シグネットリングの歴史とオススメアイテム

アンティーク・ヴィンテージのジュエリー・アクセサリー愛好家から注目を集めているシグネットリング。
中世~近代のヨーロッパにおいて、シグネットリングは上流階級の男性に欠かせない存在でした。そして、そのルーツは古代メソポタミア文明や古代エジプト文明にあるといわれています。
男性のジュエリーのなかでは最も長い歴史を持つといわれるシグネットリングについて、徹底解説します。

シグネットリングのルーツ
古代文明における「印章」の歴史

シグネットリングは特に中世ヨーロッパにおいて、公式な書類や手紙に不可欠な「印章」や「身分証明」として重要な役割を持っていましたが、この時代に突如として生まれたわけではなく、その起源は古代にまで遡ります。

古代メソポタミアの「ローリングシール」

シグネットリングの起源は、古代メソポタミア文明の「ローリングシール(円筒印章)」であるといわれています。円筒状に成形した石などの表面に図柄を彫り、柔らかい粘土板に転がして刻印をするローリングシールは、紀元前3500年頃に生まれたもので、シュメール人の四大発明の一つです。当事から、契約書や領収書といった商業関係文書が公的に認められるためには、印章の捺印が必須でした。

コロコロと転がすだけで連続した文様を速やかに刻印できるローリングシールは、外部との交易活動が急激に活発化した時代において、仕事を効率化するための画期的な発明だったといえます。ローリングシールは約3000年もの間、オリエントの交易において重要な役割を担っていましたが、粘土板に代わるパピルスや貝多羅、羊皮紙などの普及によって、その姿を消していきました。

ルーブル美術館が所蔵する紀元前2600年頃の円筒印章

ルーブル美術館が所蔵する紀元前2600年頃の円筒印章

古代メソポタミア時代のローリングシールリング

古代メソポタミア時代のローリングシールリング

古代エジプトの「ファイアンスリング」

古代メソポタミア文明においても、ローリングシールをリング状にした「ローリングシールリング」が存在していましたが、リング状の印章がさらに普及してシグネットリングの原型を作ったのは、古代エジプト文明だと考えられています。古代エジプトにおいては、ファラオや宗教指導者、そして貴族たちが、石や陶器、象牙などで作られたファイアンスリングという指輪を身につけていました。

ファイアンスリングは、所有者の力と権威を示すシンボルであり、お守りとしての意味合いも持っていました。ファイアンスリングの台座には、身につけるファラオ・宗教指導者・貴族たちの名前や、力と権威を示す図柄やシンボルなどが刻印されていました。実用的な印鑑として使われていたかどうかは定かではなく、地位や身分を表すもの、階級や富の象徴としての意味合いが強かったといえます。

ツタンカーメン

ツタンカーメンのファイアンスリング(紀元前1300年代)

シグネットリング(カレッジリング)

英オクスフォード大学卒業記念のシグネットリング(カレッジリング)

中世~近代ヨーロッパにおける
シグネットリングの重要性

中世ヨーロッパにおいて、シグネットリングが王族や貴族の印鑑や身分証明として使われていたことは有名です。現代ではファッションリングの1カテゴリのようになっていますが、もともとはシグネット(【英】signet/(意味)印鑑、認印)という名前のとおり、ジュエリーというよりは実用的な役割を担っていました。

シグネットリングが上流階級の必須アイテムになった経緯

シグネットリングが公式に重要な意味を持つようになったきっかけは、14世紀イングランドの国王エドワード2世が、「すべての公式文書には、王の印章リングによる印がなければならない」と定めたこと。シグネットリングによる「証明」の絶大な効力は、王族のみならず貴族の間にも拡大し、重要な書類には家紋やイニシャルを彫ったシグネットリングの印が欠かせないものになっていったのです。シグネットリングの印は「本当にその人が認めた書類」であることを証明するものであり、署名があっても印のないものは正式な書類として認められませんでした。

シグネットリング(大英博物館所蔵)

16世紀後半~17世紀初頭のシグネットリング(大英博物館所蔵)

「封蝋(ふうろう)」のスタンプとしても使われていた

映画やドラマで、封筒に赤い蝋を垂らしてスタンプを押し、手紙に封をするところを見たことがありませんか。中世ヨーロッパが舞台の作品や、ハリー・ポッターシリーズのようなファンタジー作品でも、よく見かけるシーンです。シグネットリングは、この「封蝋(ふうろう)」のスタンプとしても使われていました。封蝋(ふうろう)にスタンプを押し忘れると「差出人不明」扱いにされるほど重要なもので、中世ヨーロッパでは「シグネットリングで封蝋されていない手紙は、正式なものと認められない」という法律まで定められていました。

封蝋

現代で封蝋は高級ウイスキーなどの酒瓶に封蝋を見かけることも

近代ヨーロッパ時代以降のシグネットリング

リング状ではないシーリングスタンプや粘着性を備えた封筒が普及したことで、シグネットリングは公式な効力を持つ印章や封蝋スタンプとしての役割を終えます。しかしその後も、地位や身分を示すジュエリーとして、上流階級の間で愛用され続けました。

王族や貴族のみが所有するシグネットリングは、階級や富の象徴であり、財産としても価値あるものだったのです。印章として使われなくなったことで、家紋やイニシャルを彫ったシンプルなものから、宝石などで装飾された華やかなデザインへと変化していきました。

紳士に許された唯一のジュエリー

中世~近代のヨーロッパの上流階級には「軽薄さ」や「気まぐれ」を嫌う文化があり、紳士に華美な装飾品はふさわしくないとされていました。控え目で実用性のあるものだけを身につけるのが、当事の紳士たちの基本スタイル。個性を出せるのは、カフリンクスや時計、革靴、胸元のハンカチーフくらいで、結婚指輪さえつけていませんでしたが、実用的で重要な役割のあるシグネットリングだけは例外で、紳士が身につけることを許されていたのです。シグネットリングは、利き手の反対側である左手、かつ宗教的な意味合いを持たない小指につけるのが慣習でした。

英王室チャールズ皇太子

英王室チャールズ皇太子の左小指にもシグネットリングが輝く

古い時代のシグネットリングが
あまり流通していない理由

現代ではファッションリングの一つとして、さまざまなデザインのシグネットリングが製作・販売されています。かつては左手小指につけるのが正式でしたが、もちろん今は小指用以外のシグネットリングも流通しています。シグネットタイプのリングを展開している有名ジュエリーブランドや、オーダーメイドでシグネットリングが作れる店もあるので、結婚指輪や婚約指輪として選ぶカップルも増えてきているようです。しかし、実際に中世~近代ヨーロッパ時代に活躍したシグネットリングを市場で見かけることは、あまり多くありません。

アンティーク のシグネットリングはなぜ数が少ない?

アンティークやヴィンテージのジュエリーやアクセサリーが好きな人にとって、中世~近代ヨーロッパ時代に使われていたシグネットリングは、非常に興味をひかれる存在だと思います。
しかし、食器や調度品などと比べても、特に中世ヨーロッパ時代のシグネットリングは極端に数が少ないのです。その理由として、以下の2つが考えられます。

所有者の死後に破壊されていたから

中世ヨーロッパにおいて、シグネットリングは絶大な効力を持った身分証明であり、「確かにその人が認めたものである」ということを証明するために、公式な書類や手紙にはシグネットリングの印が必要不可欠でした。ただ、これは言い換えると、「シグネットリングの印さえあれば、難なく公式に認められてしまうリスクがある」ということでもあります。そのため、文書の偽造などを防ぐために、持ち主のいないシグネットリングは破壊しなければならなかったのです。

家門で代々受け継がれていたから

シグネットリングは公的な証明として非常に重要性が高く、持ち主の死後に破壊されるのが通例でしたが、実際に一代限りの指輪を所有していたのは、王、宗教指導者、医学博士、弁護士など、特に裕福な階級に限られます。シグネットリングを作るためにはかなりの費用がかかるため、父から子へと受け継がれる例も多くありました。「印章」「証明」としての役割を終え、「財産」「ステータスの象徴」の意味合いがメインになった近代からは、家宝のような扱いで大切に保管されるようになり、やはり外に流通することは滅多にありませんでした。

【アンティーク・ヴィンテージ】シグネットリングのオススメ●選

現代風にアレンジされたシグネットリングもいいけれど、やっぱり味のあるアンティーク・ヴィンテージ調のアイテムを身につけたい!という人に、おすすめのシグネットリングをご紹介します。

銀座にお店を構える アンティークショップ old&new のインスタから厳選のオススメシグネットリング、紹介します。

その他、気になるシグネットリングがあれば、アンティークショップold&new まで。