【寄稿】文京区のコミュニティ紙「坂道通信」に寄稿させていただきました

AJINAの工房のある安藤坂コインの有志の方々がメインに制作されている 文京区のコミュニティ紙「坂道通信」に、寄稿させていただきました。
生まれも育ちも、文京区なので、皆様に知っていただければ何よりです!

特集 ガレージの中から

〇植物園で釣りは駄目

初めまして、こんにちは。シルバーアクセサリーや革小物を制作・販売しています、AJINA(味な)の川上と申します。

5月号の特集を執筆された井澤さん同様、私も文京区生まれ・育ちの3代目です。小学生一年生までは白山に住んでおり、昨年、開校100周年を迎えた指ヶ谷(さすがや)小学校に通っていました。白山から小石川に引越した後も指ヶ谷小に通い、中学校は春日通り沿いの茗台(めいだい)中学校です。

小さい頃は、小石川植物園にザリガニ釣りに行ったり、近所の草むらで蛙を捕まえたり、市ヶ谷の外堀で魚釣りをして、文京区にもかかわらず外遊びを目一杯して育ちました。当時の植物園には、ザリガニ以外にもタナゴやフナ、コイ、クチボソ等、色々な魚がいて、見回りの目を盗んでは、友達と一緒になって追いかけていました。中学生になると園内でBB弾のエアガンで遊んでいたので、かなり迷惑な子供だったように思います。

今は無くなってしまいましたが、茗台中学校前から植物園前に至る吹上坂沿いのソフトクリーム屋さんには大変お世話になりました。また、三橋医院のある角地には、以前はカレーが超美味しい喫茶店があり、テイクアウトでよくルーを買ったものです。他にもケーキ屋さんや駄菓子屋さんなど、このエリアには小さなお店が沢山あり、自分にとっては、そういった小さなお店が魅力的で、いつか自分も地元にそういったお店を持ちたいという今の思いに繋がっています。

〇モノづくりの世界へ

幼少期から手を動かして何かを作ったり、分解して壊したりするのが好きで、木工、プラモデル、ラジコンと、徐々にスケールが大きくなって、高校生の頃はバイクの免許を取って、バイクいじりもしていました。

生活の中に常に何か手を動かすことがあった影響か、高校卒業後には整備士の専門学校でみっちり勉強して、ホンダのディーラー(特約店)で自動車整備士として働き始めたのが社会人としてのスタートです。しかし、部品交換の流れ作業、体力勝負の仕事で、想像していた仕事とは異なり、たった一年で辞めてしまいました。

その後、ワーキングホリデーのビザを使って、オーストラリアのブリスベンに行き、一年間、語学学校に通いました。とは言っても、簡単な会話が出来るようになった程度で、海外での経験がその後の仕事に役立った訳ではないのですが、そこで出会った人とは今も繋がっていて、色々な機会に色々な人と繋がっていくことの大切さを学びました。

帰国後、契約社員として人材派遣の会社に努める傍ら、独学で彫金(シルバーアクセサリーの制作)を始めたのが、今に至るシルバーアクセサリー&革小物制作の活動スタートです。最初は趣味で始めた彫金ですが、この業界では有名な目黒区祐天寺の「工房あるじゃん」がスタッフを募集していることを知り、この世界で食べていこうと腹を決め、見習いから始め、必死に学び、8年間の修行を経て独立しました。

〇シルバーアクセサリーについて

最初に作り始めたのは、マネークリップです。もともとチップ用の紙幣を挟んでおく留め具として生まれたアイテム。チップ文化がない日本ではあまり馴染みのないアイテムですが、お財布をズボンのポケットに入れておくことは見た目も安全上も悪く、スーツ着用時や、パーティーや高級レストランで女性をエスコートする際など、フォーマルな場面で使われる海外では一般的なお財布の一種です。

制作は、ベースとなる板を叩いて模様をつけたり、彫ったり削ったりして装飾をする工程から、曲げ、クリップとしての強度を確保するための叩き込み、磨きという順番で進みます。すべての工程が手作業で一品生産で制作しているため、表情が一つ一つ違います。
マネークリップの制作・販売が軌道に乗ってからは、ピアスやネックレス、指輪、カフリンクスなども制作するようになりました。これらのアイテムは、溶かした材料を型に流し込んでつくる鋳造(ちゅうぞう)という加工方法により作られます。

固まったものを磨くだけで完成するデザインにしておけば、型を元に大量生産もできる
のですが、私は手作業や一品生産に拘りがあるので、金属を彫る鏨(たがね)から自分で作り、鋳造だけではできないデザイン、アイテム作りを心掛けています。シルバーやゴールドといった素材の選択からデザイン、サイズ(0.5号刻み)、誕生石や刻印の有無など、フルオーダーやセミオーダーにも対応し、世界にたった一つしかないモノを創り出すことに注力しています。

〇革小物について

工房「あるじゃん」で修行している時から革小物も作るようになりました。最初は小銭入れといった小さいものから、今ではお財布、パスケース、iPhoneケース、キーホルダー、ベルト、カバン、アンクルバンド(自転車の裾留めバンド)などを作っています。

材料の革は、張りや表情、経年変化による味わいを重視して、イタリアのトスカーナ地方にある老舗タンナー・ワルピエ社の「ブッテーロ」を使用しています。動物の「皮」は「なめし」という加工で「革」になるのですが、革に染料を塗るクロームなめしではなく(経年変化で塗膜が剥がれてしまいます)、塗料を染み込ませるタンニンなめしによって、たっぷりと染料が入った重量感のある革となっています。牛の肩の部分の皮を使っているので、よく見ると牛の首のシワや血管の跡が残っていて面白い革です。

革小物は、たくさんのパーツによって構成されています(お財布の場合は約20パーツあります)。パーツの型紙を起こし、型紙を使って革を切り、接着でパーツを張り合わせ、手縫いで縫います。ミシン縫いで手間を省くと、ほつれると糸が出てきてしまうという弱点ががあるため、手縫いすることで耐久性を確保します。革の切断面も大切な箇所です。染料を入れ、ふのりを使って丁寧に磨くことで、美しい艶と強度を確保します。

フルオーダーやセミオーダーの場合、革の裏側の床面(とこめん)を使ってサンプルを作ってイメージを確認、了承を得てから、革の表側の銀面(ぎんめん)を使って実際のアイテムを制作しています。ブッテーロの革はカラーが豊富で、糸(リネン)やパーツの組み合わせだけで、何千パターンも制作可能です。カードの枚数指定やがま口を付けたり、オリジナルのアイテムも作れるので、お客様は「どこで手に入れたの??」と周りから驚かれることが多いそうで、ちょっと嬉しいです。

〇ガレージの中から

独立当初は、自宅を工房にしていました。しかし、幼い子供がいる中、金属を溶かしたり、危ない作業もあり、来客対応や活動認知に制約も多く、そんな時にAndozaka COINを知り、一階のガレージに工房を移して、約3年が経ちました。
この間、かつての自分と同じく、この世界に興味がある方を対象に「仕事旅行」という外部サービスを介して職業体験も提供し、継続的に学びたい方を対象に革教室も開催するようになりました。

制作から販売、修理、メンテまで、私のようにすべてのプロセスをお役様と一対一で対応することは、決して効率的なモノづくりとは言えませんが、使い手の個性を引き立たせるような「味な」モノづくりにトコトンこだわって、この道を探求していければと思っています。シャッターが開いている時にはビニールのカーテンの奥で制作していて、展示販売品もおいてありますので、気軽に覗いていただけると嬉しいです。

(坂道通信 Vol.5 201608 より) PDFデーターはこちらから → 坂道通信 vol.5 201608